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クリスマスの朝には

 メリークリスマス!!
 今日はケーキが食べられる素敵な日ですね^^
 (その程度の認識…)

 クリスマスSS ぎりぎりですが間に合いました。
 ではでは、お楽しみいただけると幸いです。

  『クリスマスの朝には』 
 パァァァーーーン

(!? なっ…!? 銃声!!?)

 燈馬の朝の静寂は火薬の爆ぜる音で虚しく崩れ去った。
 聞こえたのはごく至近距離で響いた破裂音。
 燈馬は一瞬体を身構えさせたが、ここは銃社会であるアメリカではないことをすぐに思い出した。
 更に言えばここは自分の家の寝室であり、燈馬の許可なく他人がこの家に侵入することは出来ないはずなのに…先ほどから硝煙の匂いが燈馬の鼻腔をくすぐっている。

 考えられる可能性に思考を巡らせるより直接正体を見た方が対応も早い。
 そう思って燈馬がそろりと動かした視線の先に硝煙の正体を見つけた。
 そこにはクラッカーを片手に笑う可奈の姿。
「おっはよーアーンド、メリークリスマス!!」
 可奈は燈馬と目が合うと、にかっと笑っていつもの元気な声で言い放った。


 ……何故そこにいるのか。


「………おはようございます。以前も言いましたが勝手に家に入るのは不法侵入ですよ」
「あんたはそれしか言えないのか」
 どうやら寝起きで糖分が十分に行き届かない思考から出てきた言葉は、可奈の不興を買ったようで、間髪入れずに頭上に響いた痛みが眠気の覚めやらぬ頭を明瞭に澄み渡らせる。
 そこで、可奈がどうやってこの部屋に入ったのか燈馬にもようやく合点がいった。

「…とりあえずこの前渡した鍵は返してください」
 そう、先日燈馬は可奈にとある理由でこの家の鍵を貸したのであった。
 それは今話すべき内容ではないし、あまりいい記憶もないので省略するが、簡単に言えば可奈は見知らぬ男からストーカー被害を受けた。その男は何とも大胆不敵というか、ただの軽率な怖いもの知らずというか、たぶんただの馬鹿だったのだろうけれど、燈馬は念のための用心として可奈に鍵を持たせていたのだ。
 そのことを踏まえたうえでもこの可奈の行動は少々…何を考えているのかわからなくなる。
「それに一人暮らしの男性の寝室にみだりに立ち入るのはいささか不用心ですよ」
「……? 何が?」
 燈馬の忠告に可奈は心底不思議そうな顔をして、逆に燈馬に何が問題なのかを聞き返した。


―――…一体僕のことを何だと思っているんですか?


 心の声が漏れそうになる。
 しかし、そんなことを口にしたところでどうせ返ってくる回答は「便利屋」だの「宿題代行人」だの、まったくもって喜ばしくない内容であるのは確実だ。
 また、たとえば実力行使を持って可奈に伝えるとしても、巷で流行っている壁ドンや床ドンをしたところで、カナ相手では返り討ちの制裁を受けるのが関の山だ。

 燈馬は溜息を吐いてそのことを言及するのは諦めたのだった。
「まあ、いいです。家の鍵さえ返してくれれば」
 事件が解決した今となっては、この家の鍵は彼女には用無しのはずだ。

 そのはず、なのに…

「えー、あれくれたんじゃないの!?」
 可奈は驚いたように燈馬に尋ねてくるのであった。
 どうしてそんな思考回路になるのか解らないし、とうてい理解できるとも思えない。
 燈馬は朝から本日二度目の溜息を吐いた。

「あれは用心のためであって、差し上げたわけではありません。何より水原さんがこの家の鍵を

持っているのは色々と気が気ではありませんので……返してください」
 燈馬がきっぱりと言い放てば、可奈はしぶしぶながらにポケットから鍵を取り出した。
 なんだかんだ言って、可奈は燈馬が絶対に嫌がることは控えてくれる。
 だからこそ、たぶん彼女に惹かれたのだろうけれど。

 燈馬は可奈から鍵を受け取るととりあえず寝室のサイドテーブルに置いたのだった。
 そして、そこで燈馬はようやく可奈の視線に気が付いた。

「……? 何ですか? 水原さん」
 心なしか彼女の頬が赤い。
 風邪か何かか…そんな心配をしかけて可奈の言葉を待つ。
「…いや、燈馬君って意外と寝るとき上は服着ないんだなと思って」
「………っ!!!」

 その言葉にはたと自分の格好に気が付く。 

 そういえば自分は今寝起きということで、つまり就寝時の格好なわけで、ということはかなり

無防備な格好になっている。


―――ズボンはいていて良かった… いや、そこじゃない。

 
 思わず一人で突っ込みをしてしまうくらい燈馬の思考回路は一瞬にして乱れた。
「き、着替えるので出ていってください」

 いやこの程度の格好ならプールとかで見慣れているはずだ。
 
 燈馬はそう自分に言い聞かせるものの、そもそもプールは見せる前提というかそのつもりというか…と思考がどんどんずれていくのも感じる。

 らしくない。

 まさかこの程度のことで自分がここまで狼狽えるとは思ってもみなかった。
 たぶん、それも可奈だからなのだろう…
 そんな自明の解にすら羞恥を感じながらも、燈馬は何とか思考を冷ますため、可奈を寝室から押しやり、着替えを適当に済ますのだった。



「……で、水原さん。今日はこんな朝早くから一体どうしたのですか?」
 可奈がついでにと準備した朝食を一通り食べ終えた後、二人でフルーツをつつきながら燈馬はようやく疑問を口にした。

 ……まさか冬休みの宿題を彼女がこんな早くから手を付けるはずもない。

 そんなことを思っていると、可奈は鞄から一つの紙袋を取り出した。
「はい、これ」
 心なしか手渡す可奈の顔は少し紅潮している。
 そんな可奈を不思議に思いながらも燈馬が受け取った紙袋は少し柔らかい。
「…? 見てもいいですか?」
「どーぞ」
 がさがさと燈馬が紙袋の中をあされば、見えたのは蒼と白の手袋だった。
「これ……」
 燈馬が驚いたように可奈を見れば、可奈は言い訳するように「毛糸が余っただけでついでだから! マフラーみたいに長いのは無理だけど…」と焦って言った。
 だけど燈馬は知っている。
 以前可奈が編んでいたマフラーは白と緑だったことを。

 だからこの蒼の毛糸は可奈がわざわざ燈馬のために買ってきたのだ。
 また、手袋と言っても、五本指のではなく人差し指から薬指の四本分が一つにまとまった男が使うには随分と可愛らしいデザインのものになるけれど…可奈だって忙しい中、燈馬のために頑張ってくれた。
 ただその事実だけがのが嬉しい。
「ありがとうございます、水原さん」
 純粋に感謝の言葉を伝える。
 そして同時に疑問が湧き起った。
「でもなんでわざわざ朝に持ってきたのですか…?」
「アメリカだと25日の朝一にプレゼントをもらうんでしょ?」
「まあ…そうですが……」
 可奈の言う通り、アメリカでは25日朝に一斉にプレゼントの箱を開く。
 ただし、そのプレゼントは24日までに家族や親戚、友人から送られ、ツリーの下に保管されていたものなので、厳密には25日の朝一にプレゼントをもらうわけではない。

 それに……

「アメリカでは24日や25日は家族で過ごすものなんですよ?」
「そうなの?」
 可奈の言葉は燈馬の予想通り、家族で過ごすことが主流であることを知らなかったような口調だ。
「はい。…といってもうちの場合、両親はたいてい海外、優は同じような友人と過ごしていたので、僕自身が誰かとこうやって過ごすことはほとんどありませんでしたが」
「え、じゃあいつもはどうしていたの?」
 そう言われて自分の過去を振り返る。
 少なくとも家族でパーティなんてことはしたことなかったと記憶している。いやたまに森羅はいたか。
「さすがに小さいころは両親と一緒に過ごした記憶はありますが……大学に入ってからは……たぶん研究の手伝いをしていた……と思います」
 記憶の糸を手繰り寄せ、燈馬は大学時代のクリスマスの風景を思い出そうとする。が、鮮明に「今日がクリスマス」という記憶がなかった。
「なによ、その曖昧な言い方」
 歯切れの悪い言葉に、当然のように可奈は憮然と言い放つ。
 たぶん、曖昧な言葉に苛立っているんだろうな…と思いながらも当の燈馬本人が覚えていないのだから仕方がない。
「いえ、クリスマス自体にあまり興味がなかったので……気が付けば大抵クリスマスは終わっていましたね」
 厳密にいえば、大学に入ってからは気が付けば大抵クリスマスもハロウィンも七夕も感謝祭もイースターも終わっていたが。
「燈馬君らしいっちゃらしいけど…」
 燈馬の率直な記憶の感想に可奈はいまいち腑に落ちないなりも納得はしているようである。
 ぶつぶつと何かを不毛なことを言い続けている可奈の横で燈馬は特に気にせず可奈が持ってきた林檎をかじる。
 しゃくり…と軽やかな感触と甘酸っぱい味が口内に広がるころ、可奈が思い立ったように笑顔で燈馬を見た。

「じゃあ、私が今日は一日一緒にいてあげるよ」

 なんて名案。

 と、可奈の心の声が聞こえてきそうな軽やかな提案。
 たぶん、可奈は特に深い意味もなく燈馬の言ったことなど忘れて言ったのだろうけれど。今の燈馬には特別な意味を持たせようとして一瞬理性が欠けそうになる。

「……不意打ちで言うのはやめていただけますか?」

 やっとの思いで出た言葉は、顔に感じる紅潮とともに少しだけ上擦りそうになる。
 本当に、可奈の意識しない不意打ちは燈馬の考えの斜め上を直撃して、破壊力は計り知れない。

「なんでよー! 何? 私といるのは不満なわけ?」
「いえっ、そういうわけではありませんが!!」
「ありませんが、なに?」

 ………僕は最初にアメリカでは家族と一緒に過ごす日だと伝えました。
 それを聞いたうえで水原さんは今日僕と一日過ごすということは……水原さんは僕の家族、と想っても良いってことですか?


 ……なんてそんなわけありませんよね。


 言えない言葉は、とてもじゃないけれどまだ彼女に伝えられそうはない。
 また今はそれを伝えるタイミングでもないだろう。
 それほど性急に急ぐ気も今はないから、今はまだこの関係でいいか、と燈馬は別に用意した言葉をゆっくり伝えるのだった。


「じゃあ、来年も再来年もクリスマスの朝には、こうやって一緒に過ごしてくれますか?」


  ・
  ・
  ・

 ……でも、ね。
 僕もそれほど気が長いわけではありませんから。
 卒業までには水原さんもその感情の答えを見つけておいてくださいね。
 大丈夫。
 絶対に逃がしはしませんから。


*****************************


 ここまで読んでいただいてありがとうございました。
 今回は、とりあえず『大胆不敵というか、ただの軽率な怖いもの知らずというか、たぶんただの馬鹿だったのだろう』という一文を書いてみたかったことと、アメリカのクリスマスの過ごし方を教えていただいたので、それを反映させた結果このようになりました。
 いやー…燈馬君の寝間着については、ずいぶん悩みましたよ。他のQEDのSSを書いておられる方々にご相談させていただいたり。紺のチェックのパジャマ説で行こうかな、と思ったのですが諸事情により私の脳内で実は服を着ていないのではないか説がくすぶってしまった結果燈馬君上半身裸で寝ている設定になりました。
 …結局そう思った誤解は解けてしまったのでこんな燈馬君を書くのもたぶん最初で最後でしょう。
 ではでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
 どうぞ素敵なクリスマスをお過ごしください。
 &
 たぶん年内最後の更新となります。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
 皆様どうぞ良いお年をお迎えください。
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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

Tag : Q.E.D...証明終了

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