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三時の雨宿り

 こんばんは。
 先日から各地で大雪で大変ですね。
 またインフルエンザも流行していて。これから年末年始だというのに、いろいろと大変です。

 さて、お久しぶりの艦これSSです。
 今日は19年に1度の朔旦冬至というとってもおめでたい日とのことでしたので、朔旦冬至SSでも、と思いまして。
 ぎりぎり間に合いました。
 本当はQEDも書きたかったのですが、良いネタが思い浮かばず…代わりにクリスマスをQEDにしようかな、と思います。
 今回の秘書艦は瑞鶴です。
 瑞鶴は、私が最初に手に入れた正規空母で旗艦率も高いので書きやすかったです。
 ではでは、拙いですがお楽しみただけると幸いです。

  『午後三時の雨宿り』 

 ヒトゴーマルマル。
 未明から降り始めた雪は、いつしか雨になっていた。

 提督が珍しく外出するというので、秘書艦の瑞鶴も御供という名の見張り役としてついてきていた。
 なんせこの提督、隙あらば仕事をさぼって瑞鶴をいつも悩ませてくれるのだ。
 時には実力行使として爆装準備をしてみても意に介さずその逃げ足は速い。彗星をもってしても追尾に後れをとることもあるのだ。
 だったら自ら見張った方が仕事も捗るというもの。
 瑞鶴は赤の番傘をくるくるとまわしながら前を歩く提督を睨みつけた。 
「…私はそんなに信用ありませんか?」
 その気配を感じ取ったかのように提督は肩を落としながら言う。
 彼の左手には黒の番傘。一方の右手には先ほど商店で買ったばかりの柚子が入った袋。
 大の男が小さな袋を片手に肩を落として歩く姿は、普段の艦隊を指揮する時の凛々しさはない。
 それがなんとなく可愛く感じること自体、ある意味末期症状かもしれない。そんなことを思いながら瑞鶴は言葉を返す。

「それは普段の自分の行動を振り返ればわかることでしょ」
 厳しい言葉に提督は、はは…と笑う。
「笑い事じゃない!」
 そうピシャリと言ったところで提督はその態度を改める様子はないようだ。
 提督は「はいはい」と軽く答えている。

 鎮守府に戻ったらとりあえず全機爆装させよう…

 そんな物騒なことを瑞鶴が考えていると、一陣の風が二人の間を走り抜けた。
 風は容赦なく提督の番傘を奪い舞い上げ…横を流れる川へと誘ってしまった。

「あー……」

 情けない声を上げ、提督は橋の下に流れていく傘を見送っている。その両肩には容赦なく冷たい雨が降り注ぎ…その姿はやっぱりどこか情けない。
 流れていく傘を諦めるようにため息をつく提督を横目に見ながら
「提督さん、取ってこようか?」
と言えば、提督は「いや、君が濡れるのは忍びないから」と、平然と言い放つ。

 そう。
 この提督は特に気負うことなくこんな気障なことを平気な顔して言ってしまうのだ。

――― 絶対この提督は女たらしだ。

 そんなことを思うと同時に、心の奥に眠る黒いもやもやした感情がむくりと頭をもたげてくる。

――― 私たちは…ただ戦うための道具だから。
    そんなこと気にしなくていいのに。


 そんなことを言えば、頼りない顔で怒ってくるけれど。
 でも、それが現実だ。

 川面を流れていく傘を眺めながら、ぼんやりそんなことを考える。
 そんな嫌な思いを洗い流すように提督の良く通る声が瑞鶴に降り注いだ。
「もうすぐ雨が止みそうだし、私はそこの軒先で雨宿りさせてもらってから帰るよ」
「そういって、逃げる予定でしょ」
「本当、信用ないんだな」
「自業自得です。ところで私と相合傘、という選択はないの?」
「青葉の要らぬ詮索は出来れば避けたいからね」
 いつもの軽口の延長線上。
 なのに、提督の言葉は嫌でも瑞鶴の心の深いところに突き刺さる。

――― それは、私では役不足…ということですか?

 思わず想いが言葉になって落ちそうになる。
 それを飲み込んで瑞鶴はいつも通りを装う。
 いつものことだ。
 考えても仕方がない。

 それでも一度紡がれた思考の波は引いては寄せるさざ波の様に瑞鶴の中を漂う。

 提督(ヒト)と艦娘(モノ)じゃ…結婚なんてできるわけがないし。
 そんなこと、言ったって仕方がない。
 わかっている。
 今は提督さんの秘書艦というだけで、十分。

 自分に言い聞かせるように瑞鶴は想いを反芻する。

 そう、私は秘書艦なんだから。しっかりしないと。

 諦めるように見上げた空の雲は流れが速い。
 隣に立つ提督も同じように空を見上げている。
 その横顔を見つめる視線を誤魔化すように瑞鶴はそれまで感じていた疑問を口にする。
「でも提督さん、なんでわざわざ柚子を買いに出かけようと思ったの?」
 そう尋ねれば、提督は少し笑いながら瑞鶴を見て「なんでだと思いますか?」と質問に質問で返す。

 意地悪だなあ。そう思いながらも一つ、思い当たる節はある。
 だからと言ってそのために提督自らが買いに行く理由が思い浮かばないけれど。

「……私だって冬至くらいは知ってるからね」
 とりあえず思い当たる節を伝えてみると「少し惜しいです」と提督は嬉しそうにする。
「今日はね、朔旦冬至って言って、とてもめでたい日なのですよ」
「朔旦冬至?」
 瑞鶴が聞きなれない言葉に疑問を返すと、提督は頷いて言葉を続けた。
「はい。19年に一度、太陽と月の復活が重なるとてもめでたい日、というとわかりやすいですかね」
「……? ふうん。で、それと提督が柚子を買いに行くことと何の関係が?」
 同時に復活することの何がめでたいのかさっぱりわからなかったけれど、提督が嬉しそうに話す姿を邪魔する気にもなれない。
 軒先から落ちる雨の雫をぼんやりと眺めながら提督の話の言葉を待つ。
「冬至にかぼちゃを食べて柚子湯に入れば、1年間無病息災に過ごせると言われています。私は貴女たちのように直接深海棲艦と戦うことは出来ません。いつも後方から見守るだけです」
 その声はどこか虚無を漂うかのような寂しさを湛えていて。
 自分の無力を呪うかのような声に瑞鶴は弾かれたように提督を見た。

 そこにあったのは、今まで見たことのない弱々しい笑み。
 いつも飄々として、天衣無縫で…そのくせ一度指揮に入れば表情を一転させる毅然とした提督の姿はそこにはなかった。

 隣に立つのは、ただの一人の弱い男性だった。

 嗚呼。
 嗚呼、
 私がもし『ヒト』だったなら……


―――すぐにでも抱きしめて、ずっとそばにいると伝えられるのに。


 意味を成さない言葉。
 意味を持たない感情の行方。

 歯噛みしても、私にはどうしようもできない。
 伸ばした手を握りしめ感情を押し殺すしかできない。

「私たちは、そのために創られた存在だから」
 虚空を見つめて、ただの事実を述べる。
 いつものように優しく怒る声を期待して。
 だけど、今日はいつもと違った。
 もしかしたら、この漂う雨音と柚子の強い芳香が提督を…否、二人をそうさせているのかもしれない。

 いつもと違う距離感に浮かれる熱。

「……たとえそうだとしても、私には大切な……存在だよ」
 ポツリと呟かれた言葉とその手のぬくもりに期待などしてはいけない。
 だけど、今だけは。
 空と雨が私たちを覆い隠してくれるから。

「ありがと、提督さん」
 私も素直に笑える気がするんです。


 二人に流れる柔らかい沈黙は、少しずつ通り過ぎる雨が洗い流していった。
 少しずつ離れていく暖かさとともに。
 空に虹がかかるころには、いつもの提督と秘書艦に戻る。

「………雨が止みましたね。行きましょうか」
 提督は名残を惜しむ沈黙を破って、想いを振り切るように瑞鶴の前を歩きはじめた。
 もう彼はいつもの提督なのだろう。
 それをなんとなく寂しく思いながらも、秘書艦として誇りに想う。

 やっぱり、命を預けるなら弱々しい提督より自信に満ちた提督の方がいい。
 陽の下を堂々と歩く提督が、私は好きなのだ。

 そう思いながら見慣れた背中について歩けば、提督は番傘の流れていった川面を眺め、何かを思いだしたように口を開いた。
「今日は復活の日なんです。貴女のお姉さん…翔鶴が見つかるように…そうお願いするのも悪くないかもしれませんね。そうすれば私も挨拶できますから」
 そう言って振り返った提督の表情はまるで悪戯っ子のようで。瑞鶴が言葉の意味を理解して真っ赤になった顔を満足そうに見た後、今度こそいつもの提督の表情に戻った。

「さて、今日は間宮さんに南瓜のお菓子もお願いしてあるから、皆喜ぶぞ」
「て…提督さん? い…い…今の……」
「? どうかしましたか? 瑞鶴」
 瑞鶴が顔を紅潮させる一方で、提督ははぐらかすように平然と微笑んだ。
 それはいつも通りの提督。
 それなら私だって、と瑞鶴も秘書艦の顔に戻る。
「い、いえ。なんでもありません。……とりあえず間宮さんの件を赤城さんに伝えるのは一番最後にしますね」
「任せます。頼りにしていますよ、瑞鶴」
 そう言って、提督は今度こそ鎮守府に向かって歩き始めた。
 その背中を追いながら、瑞鶴はそっと笑う。

 さっき提督が言ってくれた言葉。

『大切な存在』

 きっと提督は艦娘全体を指して言ったのだろうけど。
 それでもその瞬間、あの言葉は私だけに向けられたものだったから。
 私だけで独り占め、してもいいよね?

 ねえ、提督さん。

***********************************

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 急いで書いたので少し展開が早い気もしますが……もしかしたらちょっと書き直すかもしれません。(2014.12.23修正しました)
 最近QEDで甘いSSばかり書いていたので展開が甘いですが、個人的には暗いの大好き。
 それはもう呼吸をするように書いてしまうので、ちょっと暗めです。
 艦これはどちらかと暗くなりやすい傾向がありますが、また読んでいただけると嬉しいです。
 ではでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

Tag : 艦隊これくしょん

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